錯綜する犠牲者・５

果てなき闇にて、鬼ごっこ―

side:Ayame
あやめは草陰に潜み、異形をやり過ごすことにした。手元にある武器は先ほど志村の家で手に入れた包丁。だが、流石にこれでやり合うにはリスクが大きすぎるのだ。志村が異形を引きつけてくれてはいるものの、それもいつまで続くかは分からない。
「いつまでも、此処に隠れているわけにはいかないですね……」
意を決して立ち上がった彼女の目の前では見知った人物が驚いたようにこちらを見ている。
「あ、あやめ……？」
「刹那さん……？」



side:Setsuna&Koto&Suda
「どうして君が此処に……」
驚きを隠せない刹那の後から追い付いてきたコトと須田。彼らもまた驚きを見せる。
「その人、人間よね……私たち以外にも生き残った人がいたんだ……」
「刹那さん、これならまだ希望はありますね。生存者が他にもいるかもしれない」
刹那は頷きを一つ返すと心配そうな視線をあやめに向けた。
「君が此処にいる理由は後で聞くよ。怪我はない？」
「はい、大丈夫です。それより、猟銃を持った老人の男性を見ませんでしたか？」
刹那が首を振る。
「いや……その人が君と一緒に行動していた人だね？」
「はい……囮になってくれてるんです」
「…分かった。とりあえず此処から離れよう。さっき倒してあった屍人が追いかけてくるかもしれない」
それぞれが頷くと、茂みをかき分けて先へ進むのだった。



side:Shimura
志村は病院から少し離れた小学校に潜入していた。
それほど大きい学校では無い。グラウンドはかなり広いが。
かつては児童の笑顔が満ちていたであろう学校。いまやそこに満ちているのは狂気、異常、死。
因みに、此処の校長は重度のロリコンで知られている。実際に児童が襲われたケースも少なくない。
「……此処はガキの化け物が多いな」
先ほどから何体かの屍人を倒してきたが、どれも児童だったと思われる屍人だった。
教師の屍人もいるのだろうがまだ遭遇していない。いや、できればしたくない。
子供とはいえやはり屍人だ。その筋力は人間のレベルを上回っている。まともに相手をすれば死を避けられない。
「……あの嬢ちゃん、無事だと良いが……」
一瞬だけ気を抜いた志村。
その脚を銃弾が撃ち抜いた。
「ぐぁ…！！」
思わず膝をつきそうになるのを堪える。膝をついたら立てないことを察していた。
今いる廊下の向こう。その闇の中には初老の男が立っている。この学校の校長……既に屍人化している。
「……こいつには逢いたくなかったぜ……！」
屍人がこちらに向けているのは散弾銃……いわゆるショットガンだ。彼が生前から趣味で購入し、愛用していた物だ。
志村は狙撃銃を構えた。
「逃げられないなら、倒してから逃げるまでよ……」
志村は引き金に掛けた指に力を込める。照準はしっかりと屍人の眉間に合わせる。
「…沈め！」
放った銃弾は屍人の眉間を撃ち抜いた。屍人はその場に倒れる。これで暫く動かないだろう。
だが、屍人は倒れるその寸前に引き金を引いていた。拡散した銃弾は志村の脚を、そして胸を穿った。
「………」
志村は校長のショットガンを回収し、学校を出る。校門を抜け、近くの大木の下に座り込んだ。
「……これで、終わりか……」
血が、止まらない。死が見える。彼は狙撃銃とショットガンを離れた場所へ放り投げた。それは茂みの中に落ちる。自分は腰から拳銃を引き抜き手に持った。屍人から奪ったものだ。
「…こっちのが、楽だろう……」
何が、とは言わない。いや、言えなかった。もう声が出ない。拳銃を持った手が地面に落ちる。

「………嬢ちゃん………生き、延びろよ………」

それが、見ず知らずの少女を救うために果敢に戦った戦士の、最期だった。














後書き
これは実は2倍くらいの長さがありました。病院に入った彼らのサイドもあったんです。
だがしかし。3回ほど本文が消えやがりました。書き直すたびに。
いい加減キレましたね。（笑）
病院組はまた次回ということで。それではー。