過去其の11 刹那編

刹那の咆哮が、死んだ街を震わせた。

刹那の瞳は一瞬だけ光を失い、次の瞬間には再び光を宿した。黒でも紅でもなく、アメジスト色の輝きを。

「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！」

刹那は咆哮と同時にキリアに鋭い蹴りを放つ。キリアでさえも反応できずに吹き飛ばされる。だが刹那はその直後、レイピアを握り締めたままの恵によって地に膝をつかされた。
「刹那！」
刹那の咆哮に気をとられていたソウマを零距離射撃で地に伏せさせると、直ぐに恵に射撃を始める。
「刹那を……離せぇーッ！」
輝の射撃は正確に恵の腕を打ち抜き、恵は思わずレイピアから手を離す。その瞬間だった。
「俺を忘れるなーッッ！」
先ほど斬られた筈の翔矢が手にした鋼鉄のバットで恵を殴りつけ、吹き飛ばした。
「刹那、オイ、刹那！」
「………」
地面に膝をついたまま反応が無い刹那。刹那の背中からレイピアを抜き取る。

「ククク………………」
「…刹那……？」

刹那が微かな笑いを浮かべる。怪訝そうに翔矢が手を伸ばすと

「クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ！！！」

刹那は突如、壊れたように哂い始めた。それはまるで、全てを嘲るかのような笑いだった。翔矢は身を硬くし、輝は驚いて声も出ない。
それに対して、キリア達は多少の動揺はあっても冷静さを欠いてはいなかった。
「キリア、あれはどういうこと？」
「分からないな。…だけど、気をつけろ。セツナでも器でもない、強力な『闇』を感じる」
「…どういうことです？」
「……少なくとも雑魚ではなくなったって所かな」
「へぇ、面白いじゃねーか。なら、俺が叩き潰してやるぜ！」
「ソウマ、すぐに熱くなっちゃダメよ？」
「分かってるって！」
 ソウマはそう言うと刹那の眼前に躍り出る。そして、持ち替えた得物である長剣を振り下ろした。
「殺った……！」
そう思った。だが、剣を振り下ろした瞬間、既に刹那は恵の前に立っていた。
「な……っ！」
ソウマを含め、誰もが動けない中、刹那は刀を振り下ろした。その刃は恵を切り裂き、恵はその場に倒れた。もう、動く事は無い。
「…何が起こったと言うんだ……！」
キリアが歯噛みすると同時に、刹那はキリア達に顔を向けた。

残忍な表情だった。何と形容すれば良いのかにさえ迷う。あえて言うのならば、そう―殺戮者だ。全てを破壊する死神のソレと同じだ。
「ククク………ハハハハハハハハ！！！」
刹那は哂う。次の瞬間にはソウマの眼前に現われる。
「！！」
ソウマは咄嗟に防御体勢を取るが、間に合わずに袈裟斬りにされて後退する。次の瞬間に刹那はシオン、フレイアの間を駆け抜ける。
「何っ！？」
「きゃ…っ！」
駆け抜けた直後、二人の両腕両脚から血が吹き出る。刹那はその一瞬で二人に斬撃を与えていたのだ。
瞬く間に三人に傷を負わせた刹那はキリアに切っ先を向けて言葉を発した。
「全然ダメだね？僕相手にこの程度の戦略で勝とうなんて……クク、アハハハハハ！！」
キリアは長剣を構える。しかし。
「ぐああぁ！」
キリアの腕は既に切り裂かれていた。切断まではいかないが骨が見えている。咄嗟に腕を引いたのが幸いだった。
「キリア、もう無理だ！引くしかねぇ！」
ソウマが叫ぶ。キリアは悔しそうに頷く。
「そうだな……くっ、失敗だ……器の力を見誤ったか……」
キリアの号令で四人は撤退する。だが、刹那は追わなかった。
「逃げたか……ま、いいや。まだ残ってるし……」
刹那は翔矢と輝を殺すべく、刀を振り上げ………そこで、止まった。
「ぐぅぅ……！」
刹那は苦しそうに身を捩じらせる。
「僕が……僕の……器が……」
紫の瞳の刹那はそう呟くと、地面に崩れ落ちた。同時に、他を圧倒するような闇の気配は消え失せていた。













後書き
久しぶりに書けた……（汗
PCが壊れまして、新しく買い替えたのですが……XPの方が使いやすかったなぁ。
物語がどんな展開でどういう繋がりだったかもほぼ忘れています。（ぇ
むぅ……もう少し頑張ります！（ぐっ